第1680回 相続していますか

 令和7年 4月10日~

 ある年配の住職さんから こんな話を聞きました。
境内にある墓地を掃除していながら、思ったというのです。
この大きなお墓、こんなに立派なお墓なのに、お子さんや
お孫さんたちは、ほとんどお参りになりません。

お墓を建立したおじいちゃんは、このお墓を通して
何を伝えたかったのか、何を残したかったのか
残念ながら、今は まだ伝わっていないようです。

 そして、住職さんは、自分の力不足を、つくづくと
感じ、仏さまになられた方々に申し訳ないと思われたと。
折角、こんな立派なお墓をたて、そればかりではなく、
お寺を維持していくために沢山の御寄進をされ
次の世代へ残そうとされたのに、それが伝えたい子どもや孫へ
伝わっていない。住職の自分の責任だと思うと嘆かれました。

 子どもの頃には、気づくことはできませんでしたが、
親になって、親というものは 自分のことよりも 
子どもや孫たちのことを第一に考えるものです。
家を建てるときも、そこに住むであろう人々、そして、
訪ねてくる人々のことを考えて設計し建設するものです。 

 農家の人は、次の世代の子孫のことを思って、
荒らさないよう収穫量が増えるようにと守り育てていくものでしょう。
商売をされる方は、お客さんを大事にして、末永く取引が
続くように工夫努力されて、次の世代へ残したいと頑張って
おられることと思います。

 それは、自分のことよりも、次の世代のことを考えてのこと、
境内にあるお墓もそうした先祖、先輩たちの思いがこもった

ものだろうと思います。

 仏教の教えは、お釈迦様の教えですが、それに加えて
親たちの願いがこもったものです。
やがて誰にでも間違いなく、訪れる老病死の苦しみ、悲しみ
つらさを何とか乗り越えて、喜び多く生き甲斐をもって生き抜いてほしい、
そうした願い仏教の教えを通して伝えようとされたのだと思います。

 お金や物などの遺産は、目に見えてはっきりして有り難いものですが、
目には見えないものの、親たちが残してくれたこの教えを
多くの時間や、費用をかけて守ってこられたその無形の遺産をどうか
しっかりと、受け取っていただきたいと思います。

 文化財にも有形の文化財と、無形の文化財とがあります。
お寺やお墓やお仏壇などは、形があるものですが、その意味
はたらき効果、親の願いをはっきりと確認いただけなければ
親の思いがムダになってしまいます。

是非、親たちの願いを 有形だけではなく、無形の財産を
相続していただきたいものです。

          


           私も一言(伝言板)