第1457回 還相回向の菩薩方

令和2年 12月31日〜

 人間の言葉を通って出てくる如来さまの
お言葉は還相回向だと思います。

これは口で語るお説教だけではなく、
すべての聖教がそうでありましょう。


『御文章』『歎異抄』などもそうです。
唯円が書き留めた親鸞聖人の言葉は、
お浄土から還ってきた人の言葉です。
これを還相回向というわけです。


お釈迦さまも還相回向をなさって
いるわけです。

お釈迦さまという方はお浄土から
現世へお出でになった方です。

人間に生まれたけれど、もともとは
お浄土からお出でになったお方ですから、

お釈迦さまの言葉は還相回向です。

「安楽浄土にいたるひと、
 五濁悪世にかへりては、
 釈迦牟尼仏のごとくにて、

  利益衆生はきはもなし」
(「浄土和讃」 註釈版560頁)
  という和讃があります。


お浄土に生まれ、仏に成った
人びとは、お浄土に止まって
いるのではなくて、

ただちにこの五濁悪世に還って
くるというのです。


私たちの人生の今ここの現場に
還ってくるというのです。

ちょうどお釈迦さまが、かつて
生死の真っ只中で苦しむ衆生に
説法をなさったように私たちを救って
くださるというのです。

お釈迦さまは還相回向の菩薩だと
いうことをはっきりと親鸞聖人は
おっしゃっています。


 お釈迦さまは歴史の世界で見ると、
紀元前565年ごろインドに生まれて
霊鷲山でご説法なさった人ですけれども、
永遠の世界から見ると、お浄土から
現世へ還って、そしてインドの
霊鷲山というところで衆生に語りかけた
還相回向の仏さまだというのです。


それと同じことをお浄土に生まれた
方々はみななさるのだということ
おっしゃっているのです。
たんにお釈迦さまだけではありません。
私たちに仏法を語ってくださっている
人びとはことごとく、還相回向を
なさっているのだと思います。

たとえば一人の人がお浄土に往かれますと、
残された人には「ああ、あの人
かつてこういうことを言った。
私にあの時こういうことを言って
くださった」という思い出が残る
でしょう。
[仏法を聞きなさいよ]とその人が
言ったことがあるとする、

これがもう還相回向なのです。
その時にはそう思わなかったけれども、
その人が亡くなるとはじめて
わかるのです。
目の前に生きているあいだは
仏さまとはなかなか思えないでしょう。

信心のある人を見てもつい、
人間というのはみんな同じでは
ないかと思ったりする。
ご信心があるからといっても
仏さまと同じような態度ではありません。

やはり身体を持っておりますから、
病気になったり、いろいろと

ありますと、これを仏さまとは
とても思えないのです。
しかしその方が亡くなってしまって
から静かに思って見ると、
「ああ、あの人があの時に
こう言ってくれた」ということが
あるのです。

そういうたくさんの還相の菩薩方の
はたらきがこの世にはあるのです。 

宗教への招待 大峯顕著 本願寺出版社


        


           私も一言(伝言板)