第1331回 倒懸 とうけん

 平成30年 8月2日〜

 盂蘭盆経というお経を元に、お盆の行事がはじまったと言われますが、
目連尊者の母親は どうして餓鬼道に落ちてしまったのでしょうか。

お釈迦様の弟子として、頭角を現した賢い子どもを育てた、立派な母親なのに
なぜなのでしょうか。
それは、かわいい息子を育てるために、困った人が水を乞うても

食べ物を求められても、自分の子どものために隠して与えず、布施する
ことが出来なかった、むさぼりの心で作った罪が原因で苦しみの世界へと
落ちてしまったのでしょう。

子どもを育てることは、並大抵のことではありません。

しかし、子どもの方は、その親の苦労にほとんど気づかずにいます。

 ところで、浄土真宗では、お盆に、一般の提灯とは違った 
切り子灯籠を荘厳する地域があります。
白い紙を細く切って長く垂れ下げた、少々不気味な灯籠です。

これは、餓鬼道に落ち、逆さづりにされ苦しむ目連尊者の母親の
長い髪を表していると言われます。
修行して、修行して、神通第一と言われた目連尊者であっても
餓鬼道に落ちた実の母を、自分の力では救い出すことは出来なかったのです。

 お釈迦様は、雨期の間に這い出した小さな虫たちを踏み潰し、
知らず知らずに殺生することがないようにと、一カ所にとどまり修行する
安居を行っておられました。
その安居の最終日に、多くの修行者の力をかりて 目連尊者の母親は
無事救い出されたと盂蘭盆経には記されています。

目連尊者が、修行者に供養した功徳でとありますが、すでに地獄で
苦しむ人が救われるのは、お念仏の教えしかないと、
多くの修行者や菩薩たちが「南無阿弥陀仏・南無阿弥陀仏」とお念仏を
称えて呼びかけてくださったことで、目連尊者の母親も、やっと
お念仏のご縁に遇うことが出来、餓鬼道から抜け出すことが出来た
と味わうのが浄土真宗なのでしょう。

 浄土真宗では、南無阿弥陀仏の人は 「往生即成仏」と言われます。
ですから、お浄土に生まれ、仏となった多くの先輩方は、すでに
私たちを導いてくださっていると味わいます。

では、倒懸の姿を現す灯籠や そうめんを使って餓鬼道で苦しむ人の
長い髪を表すのはなぜなのでしょうか。
それは、この私を育てるために、親たちは多くの罪を犯し、一方ならぬ苦労して
くださったそのご恩に、気づかせようとするためでありましょうし、
もしその親たちが、この私を育てるために作った罪が原因で、苦しみの世界に
留まっておられるのであれば、この私がお念仏して、間違いなくお浄土に生まれ、
仏となって救い出す責任があるということを教えるためでもありましょう。

また、この私も親として子どもを育てるために、知らず知らずに罪を犯し、
行き先は地獄しかないのだぞ、どうか南無阿弥陀仏の教えに出会い、

必ずお浄土に生まれなさいとのお示しでもありましょう。

そしてまた、世間で言うように、お盆だけ返って来る先祖と思って
いるだろうが、それは地獄に落ちた先祖のこと、多くの先祖は仏となって、
お前にお念仏を勧めておられることを、早く気づけ、ただ念仏しかないのだぞ、
少々の善根を積むことで救われるような軽い罪ではないと、気づいてくれよとの
呼びかけであると受け取れます。


 必ず地獄しか 行き場所のないこの私を 南無阿弥陀仏のお念仏で
間違いなく必ず救うとの南無阿弥陀仏の呼びかけを、確かに聞き取り 
お盆の三日間だけではなく、寝ても覚めても、立っても居ても、一生涯
お念仏とともに、よろこびの生活を送らせていただきたいものです。

          


           私も一言(伝言板)