リーグ終盤を迎え、勝利をつかみ、手応えを感じたいサガン鳥栖。第34節の
相手は、図らずして、J2初代王者を狙う川崎フロンターレ。
夕日の傾き始めた等々力陸上競技場は、フロンターレの勝利の瞬間を目撃しよ
うとする人で、徐々に埋まっていく。しかし、鳥栖にとってはリーグ戦の大事な
1試合であり、安々と勝利を与えるわけにはいかない、目の前で歓喜に沸く胴挙
げなどさせない…。いつもと変わりなく会場入りして、平静を保とうとするが、
いつにも増して、闘争心と緊張感があふれていたのは言うまでもない。
東海大の同期生・寺田のマークを受けることが予想される片渕も「負けるわけ
にはいかない。一泡吹かせたい」と意欲を語る。
リラックスした表情は楚輪監督。「チームにとって、良いアピールの場。早く
(試合を)始めたくてウズウズしている」と、余裕を見せる。
平日の夜の試合にもかかわらず、「居ても立ってもいられない」と、全国から
サガン鳥栖の応援に掛けつけたサガンティーノ、その総数50人あまり。刻一刻
と迫るキックオフを、選手たちと同じ気持ちで待つ。
18:59、キックオフ。警告累積で出場停止の川前に替わり、センターバッ
クは松田と佐藤陽。高嵜と共に最終ラインから大声でコーチング。左SBは森保、
右SBは島岡、井原がボランチを務める。中盤は左から中村・小林・北内と並び
「3人ともポジションを自由に」(楚輪監督)取り、攻撃のチャンスをうかがう。
FWはここ数試合と同じく、片渕をポストに、やや下がり目のポジションで竹元
がチャンスボールを狙う。
序盤、右サイドの長橋に一旦ボールを預けて、そこから攻撃を仕掛ける川崎に
対して、鳥栖はゴール前でのシュートシーンこそ少なかったが、様々なパターン
を見せる。北内が片渕を前方のスペースへと走らせるスルーパスを出したり、島
岡のオーバーラップから流れるように中央の片渕〜小林へつながったり、速攻か
ら竹元が一気にドリブルで持ち込んだり…。攻撃のにおいを感じるだけに、得点
へのあと一歩が欲しい。
守備の意識も高く、非常に落ち着いている。相手をサイドへ追い込み、数的優
位で挟み討ち。28分、ツゥットと向島に立て続けにシュートを浴びるが、人一
倍集中力の高い高嵜がスーパーセーブを見せ、ゴールを割らせなかった。
川崎の三分の一のシュート数(鳥栖:3、川崎:10)、得点こそないものの、相
手へプレッシャーを与え、無得点に抑えたという点では“AWAYゲームの試合
運び”としてはまずまず。
ハーフタイム、「中盤が一つのプレーで終わってしまうので、連続性を持つ」
「セカンドボールを拾う」「シュートを放つ」と修正した鳥栖。
後半立ち上がりは川崎に主導権を譲ってしまった。速攻を浴び、CKを与えて
しまう。しかし怒涛の攻撃にも、怖いほどの集中力で対応し、クリア。55分・
56分の川崎のセットプレーのチャンスも、高嵜がスーパーセーブでことごとく
潰していく。ようやく62分、中村の左足から放たれたシュートが浦上を脅かし
た1分後…63分、川崎右サイドからのクロスボールを、ゴールラインすれすれ
の位置で久野がセンタリング、鳥栖DFのクリアボールは不運にも鳥栖ゴールに
吸い込まれてしまった。0−1。痛いオウンゴールだった、しかし…
66分、会心の同点ゴールが生まれる。オーバーラップした森保が竹元からの
パスをセンタリング、北内がスルーしたボールに飛び込んだのは…小林だった!
失点のショックを引きずらず、互いにカバーし合いながらワンチャンスを確実に
ものにした見事なゴールシーンに、等々力競技場が鎮まった。この同点を境に、
一気に加速する鳥栖。押され気味の川崎は、ロングボールからカウンターを狙う
のが精一杯。
78分、北内に代えて佐藤大を投入、右サイドの展開を計るが、パスを待つ竹
元らの合図が見えておらず、無理なボールキープやドリブルが災いしてしまう。
徐々に攻撃の主導権は川崎へ。しかし、最後の砦は崩されることなく、90分が
終了し延長戦へ突入、この時点で川崎の優勝決定を阻止した。
延長戦に向けて、早々と円陣を組んだのは鳥栖だった。いつも以上に活気ある
掛け声と共に、選手がピッチへと散らばった。今まで観てきたサガン戦士たちの
姿で、一番自信にあふれた姿だと感じた。対する川崎の円陣には緊張感が漂う。
鳥栖のキックオフで、延長前半が始まった。1分すらカウントしていない間に
島岡の右スローインが左前方の片渕へ。相手の意表をつくプレーはこの後も続い
たが、決定的チャンスを迎えられない。100分、中村に代えて福留を投入、前
線に厚みを持たせてシュートを狙う。
103分、右サイドからの長橋のシュートを高嵜がキャッチした1分後、試合
にピリオドが打たれた…104分、左サイドで伊藤にパスを出した浦田が、鳥栖
DFのファーサイド裏に走り込み、伊藤のクロスボールを受け、ヘディング…。
死力を尽くした鳥栖イレブンは、力なくピッチに崩れた。非情なまでの、スタ
ジアムの歓喜の声。それでも、イレブンたちはスポーツマンらしく、相手の勝利
とJ2の2位以内確定を賛え、川崎Fイレブン一人一人と固い握手を交わした。
J1昇格を目前にしたチームをこれほどまでに苛め、自分たちのサッカーを展開
した鳥栖イレブンたちを、サポーターは暖かい拍手で労った。また、選手と同じ
く、さわやかなサポータースピリッツで、鳥栖ゴール裏からは「祝・J1昇格」
という横断幕が掲げられ、「フロンターレ!」コールが何度も繰り返された。
クールダウンを済ませ控え室に戻る頃、悔しさが再びよみがえってきた。そう、
決して相手の勝利をお膳立てしにやって来たのではない。それだけに、この日の
敗戦は、悔しい。相手から学ぶことは多いが、それ以上に鳥栖の“現在(いま)”
を知ることが大切だと感じた。
次節は、またしても昇格を狙う相手との闘いとなることが決まった。しかし、
“鳥栖は鳥栖”。自分たちのサッカーで、自分たちのために勝利をつかみたい。
<楚輪監督>
選手たちはとても頑張ったと思う。チームのやり方は間違っていないと思う。
身体を張って守り、GK・高嵜を中心にバランスを保って、よくしのいだ。ただ、
(シュートが)打てるところでボールを回してしまう点が、優勝がかかっていてゴー
ルを狙うチームとの差ではないか。精一杯頑張ったが、そこにプラス自信を持たな
ければいけないし、守るだけではなく勇気をもって攻撃を仕掛けなければ。
でも、とにかく、選手たちは本当に頑張ったと思う。
<竹元選手>(悔しさと不甲斐なさを露にしながら)
弱い。自分たちの弱さを感じた。ボールが来ても当たらないし…本当に、この
あとについて考えていかなければ…。
<小林選手>
僕からスルーパスを出すよう任された。(相手DFの)裏へ走ったり、中盤で
つなぐことが思うようにできなかった。Jリーグに上がろうとしているチームと
対等にできたことは良かったが、マイボールになった時に勢いにあと一歩乗り
きれていない。延長戦になって運動量が落ちたのがわかった。今後の課題です。
<片渕選手>
悔しいです。「よくやった」で終わらせてはいけないと思う。寺田(川崎F)に
はセットプレーで決められたくなかったし、クリアされたくなかった。今回、ま
た寺田を追いかける形になったが、いいライバルでありたいと思う。内容のある
試合をして、残りを全勝したい。
☆☆☆エピソード☆☆☆
11/8、チームにお便りが届きました。(以下、お便りから抜粋)
「先日5日の等々力でのサガン戦で、とても感動したことがあり、お知らせした
いと思ってお手紙しました。
フロンターレが延長で勝ち、J1昇格を決めた時のこと、私たちが盛り上がっ
ていると、サガンのサポーターの方々が、フロンターレを祝福する内容の横断幕
を掲げてコールをしてくださいました。私たちは自分達で精一杯だったのに、サ
ガンの皆さんの、さわやかな行動を見て、本当に感動しました。サッカーという
共通のものを通して、敵も味方も関係なく、人の心が1つになれるなんて、素晴
らしいと思います。この感動は、フロンターレサポーターの中でも、私だけのも
のではないと思います。感動と感謝の想いを、私達が抱いているということを、
機会あればぜひサガンサポーターの方にも教えていただけたら嬉しいです。
同じ、サッカーを愛する者として、サガンの来年のJ1昇格をお祈りして
います。」
(川崎フロンターレサポーターの、高校3年生の女性から頂きました。)
決して、鳥栖サポーターの方は、試合前から川崎Fの勝利=サガン鳥栖の敗戦
を考えて、横断幕を用意したのではないと思われます。事実、104分という、
長い試合で、両チームの選手もサポーターも、一丸となって全力で闘いました。
だからこそ、素晴らしい試合となり、感動が生まれたのだと思います。“サッカ
ーを愛する仲間”への祝福の表現手段として、横断幕が掲げられたのですね。
また一つ、サッカーを通して、新たなフレンドシップが生まれました。心のこも
ったお便り、そして、心からのサポート、本当にありがとうございました。