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膀胱尿管逆流症とは

腎臓でつくられた尿は、腎臓から腎盂、尿管を通じて膀胱内に運ばれます。尿管はただ単に尿を通すのではなくて、蠕動によって尿を運びます。そのために立っていようが寝ていようが尿は腎臓から膀胱へと一方通行で運ばれます。そして、尿管が膀胱に入るところ(尿管膀胱移行部)は、尿管が膀胱の壁内を斜めに横切り、尿管の膀胱への開口部(尿管口)は閉じています。この構造によって逆流を防いでいる、いわゆる逆流防止機構があります。その逆流防止機構のために正常では膀胱から尿管へ尿が逆流しません。しかし、生まれつき逆流防止機構に不備がある人や、そうでなくても病気で逆流防止機構が壊れた場合には、膀胱尿管逆流症がおこります。

何度も腎盂炎をおこす人は、膀胱尿管逆流症があるかもしれません。腎盂炎を起こすたびに腎臓が障害を受け、次第に腎機能が低下し(逆流性腎症)、腎不全に至ることもあります。まれには1回の腎盂炎で腎機能が大きな障害を受けることもあります。

症状

単なる膀胱炎でもすぐに腎盂炎になりやすいので、何度も腎盂炎を起こすことが多いようです。膀胱に尿が充満すれば、逆流のあるほうの腎臓に痛みが出るようです。程度の強い逆流の場合は、排尿後に逆流した尿が膀胱に戻るので、残尿があるように見えます。

検査

膀胱造影:膀胱内にカテーテルを挿入し、造影剤を注入して撮影し、造影剤の逆流がないか検査します。逆流の程度(Grade)によって1〜5度に分けます。International Reflux Study Group が5段階に分類した国際分類によります。Grade1:尿管のみの逆流、Grade2:尿管、腎盂の拡張を伴わない腎盂に達する逆流、Grade3:軽度の尿管拡張を伴う腎盂に達する逆流、Grade4:尿管、腎盂の拡張を伴う逆流、Grade5:尿管の拡張・蛇行、高度の腎盂の拡張を伴う逆流)

腎盂炎による腎臓の障害では、炎症を起こした部位の萎縮が起こりますので、腎シンチグラムで検査すると腎の萎縮がわかります。

治療

子供の軽い逆流症の場合は自然治癒が期待できます。そこで、腎盂炎になったらすぐに治療するように用心して過ごすように指導します。いっぽうで、腎盂炎の予防のために日頃から少量の抗菌剤を毎日飲むという方法もあります。この方法の良さもありますが、耐性菌をつくるという意味において私は望ましくないと思っております。

Gradeの大きな逆流の場合は手術(逆流防止術)が必要です。子供の逆流防止術の適応については、程度の大きい逆流症や、腎障害を生じた場合でしょう。手術方法には開腹手術(成功率96.3%、千葉県立子供病院泌尿器科、平成23年泌尿器科学会総会)と内視鏡手術があります。内視鏡手術は膀胱粘膜下にコラーゲンを打ち込む方法がありますが、コラーゲンが吸収されて逆流が再発することが多いようです。そこで、コラーゲンの代わりにDefluxデフラックス:非動物由来ヒアルロン酸ナトリウム/デキストラノーマゲル(成功率66%〜77%、同上の報告、2010年10月から保険適応になった)が良いようです。欧米ではこのデフラックス注入法が第一選択になっていますが、欠点としては再発が多いので繰り返し注入することも有るようです。

治療の問題点:すべての病院を通じて決まった治療法は確立されていないので(病院ごとに治療法が微妙に異なり、患者の状態に応じても異なる)、そこで、いろんな患者のそれぞれの病状・場合に応じて検討することが必要。平成23年の泌尿器科学会総会では以下の問題点があげられた。関西医大小児科の金子一成先生は、以下のような発表をしている。

1. 腎萎縮による瘢痕化は必ずしも逆流が原因ではないのでは? なぜなら逆流がない患者や一度も尿路感染症が無い患者でも腎の瘢痕が認められることがある。いっぽうで尿路感染症を起こしても腎の瘢痕がない患者もいる。

2. 膀胱造影検査というつらい検査を尿路感染症の子供すべてに行う必要は無く、腎瘢痕がある子供にのみ行って良いのでは? なぜなら高度の逆流があれば全例に腎瘢痕があるので。

3. 繰り返す尿路感染症の子供に抗菌剤の予防内服が本当に有用か? なぜなら良いコントロール研究がないので。

4. 逆流の患者に感染予防の抗菌剤内服はむしろ耐性菌の増加を招いているのでは? なぜなら尿感染でESBL(基質特異性拡張型β‐ラクタマーゼ産生菌)耐性菌が増えているので。

5. 高度の逆流患者に逆流防止術を行った場合、逆流性腎症を防止できるのか? 逆流患者を抗菌剤予防投与群と手術群とに分けた場合、尿路感染症や逆流性腎症の発症に差が無かったので。

 
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