第49回 九州人工透析研究会報告
平成28年年12月11日熊本県立劇場にて開催され、副院長と看護師2人、管理栄養士が参加しました。
以下に副院長の報告を載せます。
シンポジウム「熊本地震を振り返って」
1.県内の透析状況
久木山厚子(宇土中央クリニック院長、熊本県透析協議会会長)
・4月14日午後9時26分の前震後の県内の被災状況は97施設中7施設、257名の患者が透析不能となった。4月16日の本震後には、熊本市と近郊の27施設が主に水要因(断水、水質汚染)のため、透析不能となった。
・4月19日には熊本市内のかなりの施設で水の問題は解決した。4月25日より大規模損壊があった数施設を除く、ほぼ全ての施設で通常の透析が可能となった。
・熊本地震で、3日以上透析できなかった患者は皆無であった。この理由は、①依頼透析がスムーズにいった、②ほとんどの施設で地震対策をしていた、③地震直後より日本透析医会を通じて近隣県の透析医会よりバックアップがあった、④地震時に施設透析をしていなかった、➄津波がなかった、⑥通信が比較的保たれていた。
・今回の問題点、①日本透析医会のネットワークへの書き込みが2/3しかできず、②給水車がきても施設にポンプがないため、給水に時間がかかった、③物資が来ても仕分け配る人がいなかった、④入院患者の給水車の食材の備蓄が減り、食材確保が困難な施設があった、➄スタッフ自身も被災しながら、また学校が長期休校となり、子供も職場に同行し働いていたスタッフが多く疲労が溜まった、患者移送手段が施設でバラバラであった。
2.熊本地震報告 ~看護師の立場から~
「透析看護師へのアンケート調査報告と被災患者の透析受け入れ経験から」
菅原園子(済生会熊本病院 血液浄化室)
・熊本地震は、過去の震災の教訓からハード面の災害対策が進み、透析機器の被災が少なくほとんどの患者は県内で治療が行えた。被災直後は1日600名を超す患者が他施設へ移動し透析した。
・スタッフ間の連絡はメールやLINEが有効であった。
・スタッフのメンタルケアも重要である。
・患者には栄養状態の低下や避難所生活・車中泊などにストレスがあった。
3.熊本地震を経験して~一般社団法人熊本臨床工学技士会の活動~
浦田浩史(熊本臨床工学技士会副会長)
・技師会で情報管理や支援物資の分配をおこなった。
・透析医会災害ネットワークへの書き込みが有効であった。連絡はファクス・LINE・電話・
フェイスブックが役に立った。
・支援は当初はニーズを予測したプッシュ式、その後はニーズに応じたプル式とした。
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4.熊本県における平成28年熊本地震への対応について(主に人工透析医療機関等へ
の給水対応について)
阿南周造(熊本県健康福祉部健康局医療政策課)
・県では前震の発生直後に設置した災害対策本部の下、災害派遣チーム(DMAT)への派遣要
請、医療救護体制の構築と運用、透析施設への給水対応など行った。透析1人当たり400
リットルの水が必要である。給水には自衛隊や市町村の水道局の支援があった。
・今回の地震による死者は154名、傷者は2,582名であった。阪神淡路大震災に匹敵する
マグニチュードであったが、被害は少なかった。
5.平成28年熊本地震における当課の人工透析医療の確保に係る取り組みを振り返って
石上晃子(厚生労働省 健康局がん・疾病対策課)
・熊本地震において、厚労省健康局がん・疾病対策課は、透析医療の確保に努めた。
・前震後に、九州厚生局、熊本県及び日本透析医会に対し、災害時の透析医療の確保に万全の体制を確保するとともに、厚労省への情報提供を依頼した。
・ニーズを集約し、県庁、熊本県透析医療協議会と協力して、関係機関との橋渡しをした。
・熊本県、熊本県透析医療協議では、以前から県内の全透析医療機関のリストが作成されており、今回は有効であった。
6.平成28年熊本地震と投石医療 -全施設へのアンケート調査報告の結果―
赤塚東司雄(災害時透析医療対策委員会 副委員長)
・各施設は十分な震災対策を行い、被害を最小限にくいとめた。透析不能施設は30施設(恒
久的透析不能施設2、一時的透析不能施設28)、延べ2611名の透析患者が透析継続不能
となった。支援透析は熊本県内53施設、県外7施設により実施され、透析不能による死
者ゼロであった。
・停電はほぼなかったか、発生してもごく短時間であった。透析不能の主たる原因は断水
と施設損壊であった。
・電話を含む通信手段がすべて使用可能であった。SNSへの分散、電話基地局の能力増強
など、混雑輻輳が解消した。
・日本透析医会の災害時情報ネットワークへの迅速かつ詳細な書き込みが多数行われた。
・厚労省・熊本県など公的機関の迅速な支援があった。自衛隊による給水など。
・JHAT(Japan Hemodialysis Assistance Team of Disaster)がボランティア活動した。
・①コンソールはフロア設置とし、キャスターはフリーとする。②配管はフレキシブルチ
ューブとする。③RO・供給装置は固定する。④患者ベッドは固定する。
以下に山上の報告を載せます。
研修内容:第49回九州人工透析研究会総会
主催者:西一彦 熊本大学医学部附属病院泌尿器科血液浄化療法部
演題:患者さんや医療者にとって、より優しい透析療法をめざして
演者:
会場:熊本県立劇場
日時:平成28年12月11日(日)
内容
0-009 低カリウム血症を起こす透析患者の現状
不整脈の原因にもなる低カリウム血症。夏が多い印象。麺類などが好まれ、副食摂取量が少なくなるからか。低カリウム血症の患者の中でも、食事の摂取量自体が低下しているのかどうか。Alb3.1以上、未満に分け、食事が摂れている場合はカリウム制限の解除をタイムリーに行った。高カリウム血症が懸念されたが、湯でこぼしを止めてもらうだけの場合は正常範囲内にカリウム値はおさまった。果物の制限解除は体重増加にもつながるので難しい。
0-017 当院オリジナルの食品リン含有表の作成と有用性
表示されていないものはメーカーに問い合わせて表を作成。かなりの時間と労力を要した。好きなものを我慢しなくても、代わりに食べられるものを選ぶことができる。加工食品にリンが多く含まれることがあまり知られていないようであった。
P-032 血液透析導入期患者におけるリンのコントロールに関する意識調査
リンが高いとよくないことはわかるが、何によくないのか、どうしてよくないのかが、きちんとわかっていない。カリウムと混同してしまい、誤った認識も多い。
P-067 通院透析患者における栄養指導の効果と影響
食品のリン含有量などを、食品を「飲料」「加工食品」などと分類し、月刊でプリントを作成し配布。患者にアンケートを取り、実際に活用できているか調査。見て知ることで、知識としては取り込まれているようだが、実生活に活かすことができる人は少ないよう。
感想
今回、初めて九州人工透析研究会総会へ参加させていただきました。ありがとうございます。会場となった熊本は、まだブルーシートが被せられた屋根も多くみられましたが、会場近辺は人も車も多く地震の影響を感じさせませんでした。
地震後の研究会ということもあり、被災直後の取り組みや、地震を体験して改めて行った避難訓練の様子などの内容が多かったように思います。事前に準備をしていても、災害時には予想できないことが頻繁に起こり、医療スタッフも被災をしている状況で医療行為を行うことの難しさを知りました。また、停電等により透析患者との連絡が取れず、地震後も患者自身の判断で透析を受けにくる方もいて困ったという意見もありました。緊急時のマニュアルはあらゆる事態を推測し、行動モデルを明記しておく必要があると感じました。患者参加型の非常時訓練を行っている施設もあり、患者自身のためにも良いと思いました。
栄養指導に関する研究内容では、リンやカリウムについてどの施設も工夫して患者側に働きかけを行っていました。私も毎月テーマを変えて栄養指導に取り組んでいますが、重要な項目は繰り返しの指導になってしまいます。患者側の情報を集めるためにも毎月話をすることは重要ですが、指導される立場からすれば同じ話では印象に残らなくなってしまいます。毎月の栄養指導から一つでも患者の心に残り、自宅で実践することが少しでも増えていくよう、今後も繰り返しの指導の中に興味を引くような工夫をしていこうと思います。また、クリニックでは高齢な方も多く患者によって嗜好や生活スタイルも様々であるため、出来る限り個人の食事スタイルに寄り添って指導、支援をしていきたいと考えます。
以下に看護師池田の報告を載せます。
ランチョンセミナー
腎性貧血治療においてガイドライン2015年版では
鉄代謝を考慮したESA療法と鉄剤の経口投与が推奨された。
診断基準 診断には年齢の考慮必要
これまで透析患者では便秘・嘔吐などの副作用もあり、また経口治療よりも静注投与がフェリチン・Ht・Hb上昇するとされていた。
しかしながら静注での酸化ストレスの亢進と心疾患リスク上昇の配慮から
鉄投与は経口投与が明らかに重要である。
ミルセラ注 4週1回から4週2回に増量することで鉄がうまく活用される
今後も熊本医大でのESA製剤の臨床おける課題
鉄代謝を考慮し経口治療で到達しない研究と癌患者に対する対応などの研究を進める。
足病変重症化予防を目指すフットケア表の見直し(別紙参照)
門司掖済会病院
(感想)
今回の学会でHt・Hb値の上昇がスムーズに改善されない場合には、鉄剤の静注を開始する前にまずミルセラ注の4週2回増量を検討をとの内容をドクターの解りやすい公演でした。
それと同時に私自身透析業務に長期の経験年数だけで、透析の奥が深く年々進化する医療において学びの必要性を改めて感じ、また、自身の振り返りができ、学会参加の機会を頂きました事に改めて感謝いたします。
今後も自身の可能な機会には学びの時間を作り参加したいと感じています。
フットケアチックの当院なりの見直しに別紙を参考にしたく提出します。
以下に看護師重富の報告を載せます。
患者さんや医療者にとって、より優しい透析療法を目指して、西 一彦 (熊本大学医学部附属病院 泌尿器科・血液浄化療法部):内容
0-046 除水計算ミス低減のための取り組み
地方独立行政法人くらて病院腎センター
0-047 留置針固定テープの変更による抜針事故防止効果
社会医療法人 白光会 白石病院、 2医療法人 貴幸会
0-050【医療版失敗学】を用いたインシデントアクシデント分析
医療法人友愛会 野尻中央病院
0-053 体成分分析装置5年経過比較を行って
医療法人芳生会 和田内科循環器科
ランチョンセミナー3
鉄代謝を考慮した腎性貧血治療
田中 元子 松下会あけぼのクリニック
感想
今回、第49回九州人工透析研究会総会へ参加させていただきありがとうございます。当院でもBCM®. 体組成分析装置を使用していますが、まだ手探り状態で他の施設の発表を参考に検討していきたいと思います。
~除水計算ミス低減のための取り組み~
当院でも除水計算ミスも軽減され、穿刺後、インチャージが確認していることで透析終了まで気づかなかったという事はなくなったと思います。
今回、透析研究会に参加でき大変勉強になりました、機会があればまた参加したいと思います。 |