第55回日本透析医学会学術集会・総会
平成22年6月18-20日に神戸国際会議場など4会場で開催され、副院長と職員が2人参加しました。
学会報告 木下徳雄
シンポジウム1「 透析科学を極めるために、何が必要か?」1.今、足りないのは確実なタスク遂行(穿刺技能など)である。人間工学、経営工学などを駆使して、装置から人間に合わせる。2.EBM(Evidence-Based Medicine)から遅れて10年、EBN(Evidence-Based Nursing)として科学的根拠に基づいた看護を提供する傾向がある。看護とは知識(頭)、精神((心)と技術(手)である。3.アクセス外来で臨床工学士がエコーで血流とシャント狭窄をチェックしている。4.日本臨床工学士会では「血液浄化専門臨床工学士」の育成に取り組んでいる。5.透析の科学的妥当性として、ガイドラインとの一致(EBM)、効果性と普遍性が必用である。6.治療を漫然と行うのではなく、注意深い観察と患者からの訴えに対して心を込めて耳を傾けることが、透析科学を極めるために必要な臨床的姿勢の第一歩である。
教育講演2「患者が語る在宅透析医療の最前線」 古薗 勉(近畿大学生物理工学部)
我が国では、1998年に在宅血液透析(home hemodialysis,HHD)が保険収載されてから、HHD患者数は僅かづつではあるが徐々に増え続け、2008年末に194人に達している。HDDでは通院や決められた透析スケジュールの遵守等の時間的な制限が緩和されるため、短時間連日血液透析や連日夜間血液透析など頻回透析が選択されやすい。その結果、心機能の改善、QOLや生存率の向上等に効果があることが報告されている。しかし、現在のHDD患者数は全慢性透析患者の0.07%にしか過ぎずない。それは自己穿刺に対する敬遠と介助者の必要性等が上げられ、さらには医療者のHDDに対する認知度の低さも影響している。 演者自身がHDDを実践されており、また臨床工学技士でもあり、HDDの臨床の仕事もされている。HDDの普及について情熱と気迫を持って語られ、講演に深い感銘を覚えた。会場も超満員の盛況であった。
教育講演3「災害建築基準」 佐藤栄児(防災科学技術研究所 兵庫耐震工学センター) 1.免震構造にすることで、建築費は10%アップする。2.地震災害時における医療施設の機能保持評価のため震動台実験をした。 •震動台は15x20メートルの病院を模擬した4階建ての構造物とした。 •内部にはスタッフステーション、人工透析室、手術室、病室など本物の機器・装置を用い、病院施設の機能をより忠実に再現した。•実験では、耐震構造の病院と免震構造の病院での機能保持の違いを検証した。•直下型地震において、耐震構造の病院の危険性と免震構造の機能保持の状態がある。地震力を大きく低減する免震構造といえども、長期地震動では地震対策を怠ると危険にさらされる。
ワークショプ6「統制患者の合併症に対する薬剤の使用」1.腎排泄型の薬剤はハイリスクであり、透析患者は治療効果と副作用を考慮する。2.透析患者の6割は便秘がある。加齢、糖尿病、女性が有意の要因である。頑固な便秘は虚血性腸炎、イレウス、消化管穿孔を起こすことがある。虚血性腸炎により緊急手術を要した透析患者ではイオン交換樹脂の服用、多血症、昇圧剤の服用、透析による除水が非発症透析患者に比し有意に多い。高齢の透析患者、栄養障害による虚弱患者、あるいはモルヒネ、オキシコドンや抗コリン剤などの腸管蠕動を抑制する薬物を服用している透析患者では、腸管蠕動力の低下が便秘を引き起こす原因になっている。このような弛緩性には腸管蠕動を促す刺激性下剤は最適である。刺激性下剤は汎用される下剤であるが、比較的若く活力のある症例や、イオン交換樹脂など大量の不溶性薬剤が原因となる便秘に対しては好ましい選択ではなく、連用により耐性を生じやすい。イオン交換樹脂などの不溶性薬物を大量服用することで、結腸の通過障害→結腸の膨満→結腸の非薄化を生じ、透析での除水による結腸虚血から穿孔が起こりやすくなる。便秘をしやすい薬物を投与する時は、浸透圧下剤のソルビトールやラクツロースを早期から少量頻回投与する。長期に排便がないときは、まず摘便などで硬い便を除く。刺激性下剤は禁忌。3.リン吸着薬は炭酸カルシウム、塩酸セベレマーや炭酸ランタンなどがある。炭酸カルシウムは、プロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬との併用でリン吸着効果が減弱する。炭酸ランタン副作用として80%に嘔気・嘔吐、便秘などの消化器症状がある。少量から開始し、良く噛み砕いて服用する。4.透析患者は高血圧の頻度が高く、わが国では75% に達する。その80~90%が降圧薬を服用している。高血圧の成因は、体液量過剰やレニン・アンギオテンシン系の亢進、交感神経系(カテコラミン)の亢進、一酸化窒素やプロスタグタンジンなどの血管拡張物質の減弱、エリスロポエチンの影響など様々である。血圧管理は容易でなく、多剤を服用している。患者の高齢化、糖尿病と動脈硬化性疾患を有する患者の増加が、その要因である。わが国では、カルシウム拮抗薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンギオテンシンⅠ変換酵素阻害薬の順に投与されている。高血圧の頻度および降圧薬処方数は、透析時間で減少する。5.「かゆい」と言われたら、まず問診と視診をする。腎不全の皮膚への影響は、皮膚・肝・腎へのビタミンDの作用やuremic toxinなどがある。透析室では、至適透析か、透析機器によるアレルギー、二次性副甲状腺機能亢進症、心因性、薬剤性を考える。かゆみのメカニズムとして、末梢ではかゆみのレセプター、中枢ではオピオイドペプチドが関与する。まず、生活指導とスキンケアが大事である。皮疹がなければ保湿剤で治療開始し効果なければステロイド外用剤を使用する。湿疹、皮膚炎があれば、経口剤も併用し、抗ヒスタミン剤を投与する。オピオイド治療薬(レミッチⓇカプセル)は効果があるが、幻覚・イライラ・不眠などの副作用がある。6.透析に伴う心室性不整脈はレニン・アンギオテンシン系、特にアルドステロンの制御が重要である。乏尿ないし無尿の維持透析患者では高K血症の危惧が少ないため、選択的アルドステロン阻害薬(セララⓇ)の使用も検討に値する。7.不眠症には透析患者の高齢化、配偶者の死亡によるうつ状態、透析に対する不安などが関与する。シャントトラブルなどで、高齢透析患者が短期入院すると認知症の周辺症状として夜間の睡眠障害を確認できることがある。
研修報告書 職種 看護師 中村 雅美
透析患者の施設入所状況改善への取り組み~地域医療機関との連携~白十字会佐世保中央病院 【目的】 透析技術の進歩及び高齢化社会で、長期間の透析で高齢となる患者、新たに高齢透析導入となる患者が増加。今回、施設スタッフの透析に対する意識調査を通し、透析患者の施設入所状況や問題点・施設スタッフが抱えている不安等を整理、患者・施設支援に役立てたいと考えた。施設に透析に対する意識調査、アンケートを行い、条件により受け入れると回答したのが約半分で、通院、緊急時・急変時の対応、食事管理ができれば受け入れると回答が多かった。施設スタッフの96%は透析患者入所に不安を感じていた。それで、施設スタッフ用透析パンフレットと患者個別情報提供書を作成。施設が知りたいことは、食事管理や水分管理が90%以上で、日常生活の中の注意点が80%だった。透析患者の食事管理は、施設では栄養士とスタッフで行われているところがほとんどであると思われます。当院でも、施設入所の患者がいて、施設のスタッフに栄養指導をされている。理解力のある患者は、自分なりに管理されている。生活の中での、注意することはシャントの管理で看護師のスタッフへの指導も大切だと思います。そのほか、体重や内服薬、体調管理など様々ありますが、病院と施設との連携、情報なども大事だと思います。施設側の抱えている不安や問題点、施設側のニーズに答えることで、よりよい施設との連携を深めていく事が必要だと考えました。
透析患者の低栄養防止には透析間体重増加はある程度容認せざるを得ない 和歌山透析研究会栄養士部会和歌山県立医科大学腎臓内科・血液浄化センター【目的】透析(HD)患者の低栄養は生命の予後を悪化させるが、死因の第一位は心不全でありHD間体重(BW)管理は生命予後改善に不可欠である。今回、栄養評価の面からHD患者の適正BW増加率を検討する。【考察・結論】 BW増加率と栄養関連検査値との正相関よりBW増加率の高い患者は食事摂取量が多いことが示唆され、栄養状態良好維持にはある程度のBW増加は容認せざるを得ない。BW増加による心不全防止にはHD時間延長を考慮すべきであり、今後許容可能なHD間BW増加率は生命予後との関連から再検討の必要性がある。栄養状態を良く保つためには、多少はやむ得ないが、体重増加は生命予後にも関係してくる。体重増加の原因としては、水分摂取が多い。だが、水分摂取ばかりではなく、食事の内容や摂取量もある。排便コントロールも大切なことである。体重増加に対して、つい食事のことばかりに目がいってしまうことが多い。でも、検査値をみてみると栄養状態が良くないことがあった。体重管理は患者自身で行っていかなければならないことなので、その手助けになるように指導していかなければと思った。心不全予防のため、透析時間の延長も言われているが、施設によっては難しいこともある。今回、学術集会に参加して、今までの自分の考えが不十分なことに気付かされました。透析に対する知識を深め、患者さんに寄り添い透析生活がよりよいものになるよう、私自身これからも勉強していきたいと思います。
准看護師 氏名 桑本 崇
透析看護について、新たな取り組みとして新人教育だけではなく、現在働いているスタッフに対しての指導のあり方、チェックリストや評価表を用いた業務レベルの向上を図るもの。受持ち制をチーム制(例)10人に対し3人のNsが受持ちとなり、看護をしていく。利点として、スタッフの勤務形態で、その日に受持ちいないケースが減り情報の管理がしやすい。3人で受持つことで患者に対する責任(ストレス)の軽減、患者とのトラブルに対し対処しやすい。1人が折り合い悪くても他のスタッフで対応すればよい。など問題点として考えられるのが、責任の所在がはっきりしないことがある。3人の中に発言力の大きいスタッフがいると、その人の意見だけ反映する形になる場合があること。など患者の性格を把握する為に今回、日本透析医学会へはじめて参加させていただきました。まず驚いたのが規模の違い。会場がいくつもあり、どの発表内容を聞きに行くか前もってある程度決めておかないと移動するだけで時間がかかり、肝心な内容が途中から聞くことになり、あわてて移動することになりました。
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